※ この記事は「たちばなブログ」に掲載したものを転載しています。
もう師走に入りましたね。
この時期は忘年会がたくさんあって、年を忘れすぎて健忘症を起こしそうなあおのです。
前回、製品事故の発生は社会構造の変化と技術の進歩が背景にあるとお話ししました。
今回は、製品事故についてメーカーが責任を負わないために研究開発で活かすべき視点をお送りします(何回かに分けます)。
そもそも現代社会の製品は、科学技術の塊です。
例えば皆さんは当たり前のように電化製品を使っていますが、電化製品は発火する危険をそれなりに抱えた製品です。
だって、電気を通していて、燃える可能性のある部品を使っているんですから。
そういう意味では、すべての製品には多かれ少なかれある程度の事故の危険が潜在化しています。
そして、製品事故の発生を100%避けることはできません。
製品事故を生じるファクターは、製品そのものに問題がある場合もあれば、ユーザー側が製品の使い方を誤って発生することもあり、それらの因子をすべて排除することは現実的ではないからです。
そうだとすれば、製品事故が発生したとしても、事故が発生すればすべてメーカーが責任を負うとすれば、メーカーの責任範囲が広範かつ不明確に過ぎ、製品開発を萎縮させてしまいます。
したがって、製品事故でメーカーが責任を負う場合とは、基本的には製品に「欠陥」がある場合に限っています(製造物責任法の場合)。
そして、「欠陥」を考えるにあたっても様々な要素を総合考慮して判断がなされることになります。
「欠陥」を考える際のポイントは複数に及びますが、今回取り上げるのは「製品特性」です。
多くの製品には、社会において便利に用いてもらう、役立ててもらうために、製品が利便性、すなわち製品の効用と有用性を有しています。
例えば、医薬品には副作用の激しい製品もあり、抗癌剤などに代表されるように、その使用で身体の不調や新たな疾病を生じたり、最悪の場合には死亡する危険を有するものがあります。
しかし、患者が疾病を有し、その治療をして患者の生命などを救うためには、その危険を甘受しても使用しなければならないときがあります。
そのような製品については、副作用という危険があることだけをもって、その製品に欠陥があるということはできにくくなります。
他方、いわゆる玩具などは、子どもの教育に資する、娯楽的な効果を有するという意味での有用性はありますが、医薬品のような生命・健康に関わるような重大な効用は持っていません。
一方で、玩具の製品事故は度々生じており、いくつかは重大な障害を生じている事例もあります。
そうすると、当該玩具の事故発生の危険性が大きい場合、比して効用や有用性が小さいため、欠陥が認められやすい方向に働きがちです。
また、製品の危険性を判断するにあたっては、当該製品によって事故が起きた場合の被害の大小と頻度を相関的に判断する必要があります。
例えば、事故が起きる可能性は低いけれど、一度起きたら大きな被害をもたらすことが予想されるような製品は、頻度の低さを理由に欠陥を否定しにくくなります。
一方で、被害は軽微なものと予想されても、それが頻繁に起きるのであれば、これも欠陥を否定しにくい方向に働きます。
また、被害の内容としては、人の生命や健康にまで及ぶ場合もあれば、財産的被害のみが予想される場合もあります。
また、事故によって企業の対外的評価や株価への影響なども、昨今では無視できない被害といえます。
その他、製品価格も考慮要素となり、廉価な製品であることが安全性が低くても良い理由にはなり得ませんが、一定の製品では「さらなる安全性確保のための装置」をオプション提供することで、製品の安全性確保義務を果たしていると評価されることがあったり、製品の耐用期間によっても求められる安全性は異なってきます。
このように、製品事故があった場合にメーカーが責任を負うかどうかについては、当該製品の特性が第一に問題にされることとなり、製品の構造などを分析して、検討することになります。
そして、製品の特性を検討する場合にあっては、その製品がどのように使われるか、メーカーがどのような製品の使用を想定・予見しているかも重要な視点となりますが、このお話は次回。
詳しいお話は、「製品開発メーカーのリスクマネジメント」(レクシスネクシスジャパン)をご一読ください(宣伝w)。