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医療基本法はどうあるべきか(たちばなブログ)

※ この記事は「たちばなブログ」に掲載したものを転載しています。

先日まで京都に行っておりました。あおのです。

寺院や茶屋でお茶ばかりいただいていたおかげで個人的に日本茶ブームになり、小さな茶器セットを買って帰ってきました(本来は珈琲党です)。

すっかり寒くなってきましたが、この冬は日本茶で乗り切りたいと思います。

 

さて、今日は、医療基本法のシンポジウムに行ってきました。

あおのは患者側で医療事件を受ける弁護士ですが、質の高い安全な医療の実現を目指して、小さいながらも活動をしています。

今回の医療基本法シンポジウムは、患者の声協議会・東京大学医療政策実践コミュニティー(HーPAC)医療基本法制定チーム・患者の権利法をつくる会の3団体で開催され、日本医師会や神奈川県保険医協会、日本病院会からもシンポジストを呼んで行われたものであり、近しく活動している方も多く参加されていました。

 

そもそも医療基本法とは、その名のとおり我が国の医療をどうするかという基本的な方針を定めた法律です。

医療の基本を部分的に定めるものとして現在は医療法があり、昨今の医療事故調の制度設計も医療法の改正の中で行われました。

また他にも、様々な医療に関する法律が存在します。

しかし、医療法は医療施設に関する施設法であり、他の法律を見ても、医療の基本になる法律、憲法ともいえる土台になる法律はありません。

言ってみれば、枝葉はあるけど、幹になる部分がない状態になります。

これは、患者にとっても医療者にとっても大きな不利益を生じます。

医療がどうあるべきかという基本方針についての社会に合意がないわけですから、我が国の医療がどうあるべきなのか、患者はどう扱われるべきなのか、医療者はどうなのか、といった大原則がないことになります。

また、政権が代わったり、制度が変わったりするたびに、医療現場に対して影響を生じることになり、患者も医療者も振り回されてしまいます。

そのため、揺るぎない幹となる基本法が置かれることは不可欠であり、これは患者のみでなく、医師会をはじめとする多くの医療者からも同様の要望が出ています。

 

また、何より興味深いのは、医療基本法の制定に向けた長年の動きの中で、求められる医療基本法の中核部分がほぼ合致する方向に収斂しつつあるということです。

もちろん、医療者と患者では、基本法に求める細部の内容やウェイトの置き方は違います。

しかし、その基本的方向性は同じところを向いているように思われます。

 

その主たる方向性を基礎付けるのは、医療は公共のものであり、医療のステークホルダーたる患者と医療者は対立するものではない、という考えにあると思います。

たとえば、今日のシンポジウムの中でも出てきた話ですが、リスボン宣言は患者の権利を定めたものですが、これは患者の医療者に対する主張・請求を宣言したものではありません。

(私は弁護士になるまで誤解していました。)

リスボン宣言は、医師が、患者にはこんな権利があるんだということを宣言したものであり、国家や社会がそんな患者の権利を侵害しようとするならば、医師は国家や社会と戦ってでも患者を守る、という宣言です。

 

つまり、このような方向性は、公共政策としての医療を質が高く安全なものとして社会や国家がどのように実現するかにかかっており、医師と患者は、より良い医療が提供される環境を作るために、国家や社会に働きかけるという活動に繋がるということになります。

例えば医療提供者の労働環境は劣悪なところも多く、医師の労働環境が医療事故を生む、医療事故のシステムエラーとしての側面があります。

また、国民皆保険制度の中での点数制の診療報酬にも問題があります。

適正な診療報酬が支払われるような仕組みの中でこそより良い医療が成し得る面もあり、ここにもシステムエラーの側面があります。

このような問題は特に、患者と医療者が対立するのでは何も解決しません。

 

このような医療の根底にある問題点を解決するのは、医療者と患者の対立構造ではなく、公共政策としての医療がどうあるべきかという議論であろうと思います。

国民的な議論による合意形成を経て、我が国の医療をどうするか、国、医療者、患者、国民というそれぞれのステークホルダーが考える。

医療そのものではないけれど、医療に関する教育、つまり健康なときは意識しないが病気になって初めて医療を考えるという医療に対する国民意識の低さも解決しなければなりません。

国家予算としての医療費の膨れ上がりも解決しなければなりません。

 

そのような様々な問題の解決のため、根底にある「我が国の医療がどうあるべきか」に対する一つの答えを見つけるためにも、医療基本法の制定が不可欠であろうと思います。